2021年1月17日に行われた共通テストで、マスクから鼻を出していた40代男性の受験者が強制退出させられたというニュースがあった。

“鼻マスク”正さず成績無効 入試センター「総合的に判断」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210118/k10012820481000.html

このニュースで、自分の中の無意識の偏見に気がついた。

このニュースがはじめに流れた時の情報では、受験生の年齢や性別は報道されておらず、単純に「マスクから鼻を出したまま試験を受けていた受験者がいて、その人が数回注意を受けてもそのままでいたために強制的に退出させられた」という内容だった。

この時に僕が感じたのは次の二つ。

まず、「マスクを正しく装着できない事情があったのかもしれないから、強制退出はやりすぎ」ということ。僕もどちらかというと敏感な方で、しかもメガネをつけているから、マスクを鼻まで覆うのは辛いし、しんどいのは共感できる。さらに、この人はもっとどうしようもない事情があって、マスクから鼻を出していたのかもしれない。大切な試験でいくらなんでもかわいそうだと感じた。

その一方で、「とはいえルールはルール。他の受験者のことも考えれば、しかたがない」とも思った。最初の報道の時点で、6回注意したがいうことを聞かなかった、という情報がすでにあった。5回はよくて6回はだめ、ということにはならないが、それでも一般的に考えればそれだけの回数の注意を受けても改善が見られなければ、試験官の注意を無視したという判断になってもおかしくないし、それだけ繰り返せば他の受験者ももめていることには気がついただろうから、単純に迷惑である。

という、二つの感想をもち、そのどちらも大きさは同じくらいで、やりすぎだけどかわいそうだし、判断がつかないなあ、と思っていた。そして心の奥で「この人がどんな人かがわかると、もっと意見をはっきりさせられるんだけどなあ」と思った。

さて、その後の報道で、この受験者がどんな人だったか情報が追加された。

この人は、40代の男性。注意を受けた際に、周囲の邪魔になるような発言をしたり、行為に出たりもしたという。

「周囲の邪魔になる発言や行為」は、強制退出が正しかったかどうかを判断する上で、非常に参考になる情報だ。多くの受験者にとって非常に重要な共通テストで、その人たちに迷惑になるようなことをしたものを試験会場に残しておくのはまずい。なるほど強制退出は正しい、と私は思った。

そしてさらに、「40代の男性」であることが、強制退出が正しい判断であるという考えを後押しした。

この、「40代の男性だから、追い出してよかった」というこの考えこそが、僕自身の無意識の偏見だ。

40代の男性の受験者は、きっと真剣にテストを受けに来た人ではないだろう。いまから大学に入る人もいるだろうが、多くはない。シャレで試験を受けに来た人物だ。もしかすると、初めからこのような問題行動を起こすつもりで受験しに来たのかもしれない。だって、40代の人だ。いまさら大学受験もないだろう。しかも男だし。うん、ありそうな話だ。

・・・恥ずかしながら、僕はこんな風に考えた。

何歳だろうが、大学を受験したっていい。いつだろうが、学ぶ姿勢を持っているのは問題ない。中年を過ぎて初めて大学を受ける人もいるだろうし、あるいは過去に大学を卒業したが再び学びたいと考えて再度大学へ通いたい人もいるだろう。

あるいは、そもそも大学を受けるためにだけ共通テストは存在するわけではないはずだ。これまでのセンター試験だって、自分の学力を試すために受験していた人もいるだろう。いろんな人が受験者には含まれるし、その誰もが真剣に受験していてもなんの不思議もない。

また、問題行動を起こすことと、性別もまた全く関係がない。男性だろうが、女性だろうが、またそのどちらでもなかったりどちらでもあったりしても、それは発言や行為の問題とは無関係だ。

このニュースを通じて、自分の無意識の偏見に気づくことができた。しかしおそらくこれ以外にも自分では気づいていない偏見をたくさん持ってしまっているのだろうと思う。もしかすると、というか多分そうなのだが、この記事の中にもその偏見は含まれてしまっているのだろうし、そしてこれを書いている今の僕はそのことに気がついていない。