エスカ隊長シリーズ

エスカ隊長と満月と笑う山

エスカ隊長のところには、今日もたくさんの依頼が届いていた。

今日の依頼はこんなものだった。

エスカ隊長へ

私は西の西のもっと西の村で暮らしています。実は、困っていることがあるのです。しばらく前から、満月の夜になると山が私の方を見てにやーっと笑うようになったのです。

決して気のせいではありません。村の住民全員が山が笑うところを同じように見ているのです。みんなこわがって、満月の夜は一歩も出歩けなくなってしまいました。

エスカ隊長、私たちを助けてください。

「満月になると笑う山か。面白い。行ってみるとしよう。双子ロボット、みんなをすぐに呼んでくれ!」

双子ロボットのエルとマルは急いで隊員たちを呼びに行った。

声の高い隊員はいつも通りすぐにやって来た。エスカ隊長が依頼内容を伝えると、

「満月になると笑う山ですって?そんなものあるはずがないではありませんか。きっと見間違えですよ。どうしても行かなきゃいけませんか?あんまり行きたくありませんねえ」

しばらくして、声の低い隊員もやって来た。顔ほどもある大きなおにぎりを右手と左手に1つずつもってかじりながら、

「もぐもぐ、笑う山ですか、もぐもぐ。なんだか怖いですねえ・・・、もぐもぐ。ところで山で食べる食事もおいしいですよね、もぐもぐ」

全員集まったところで、エスカ隊長と声の高い隊員と声の低い隊員、双子ロボットのエルとマルは自動運転車のオートメーテッドオートモモービル“AAMB”に乗り込んだ。

『みなさん、準備はよろしいですか。ではオートシートベルトを装着いたします。声の低い隊員さま、車内ではできるだけこぼさないようにお召し上がりください。それでは出発いたします』

AAMBがそう言うのを聞いて、窓からポケが急いで飛び出して来た。地面をターンと蹴って、エスカ隊長の胸ポケットに潜り込んだ。「よし、出発だ!」

依頼人の家に着くまでに4時間もかかったが、その間に立ち寄ったお店で声の低い隊員は買い物をして次のものを買って食べた。

・バナナ10本
・ヨーグルト10個
・りんご5個
・牛乳12本
・ハンバーガー6個

「ふうう・・・お腹いっぱいだ」

エスカ隊長たちは依頼人の家に着いた。依頼人は男の人だった。

「エスカ隊長、来てくれたのですね。向こうに見えるのが、こちらを見てにやあっと嫌な笑顔で笑う山です。いまは夕方ですから、普通の山ですが、満月になるとそれはもう気持ちの悪い顔をして笑うんです。・・・もちろん、本当です!お隣さんだって、そのお隣さんだって、私と同じものを見ているんです。今日の夜はちょうど満月です。少し待てば皆さんにも見てもらえるはずです。私はもう見たくありませんので、みなさんだけであの山をなんとかしてもらえませんか?」

依頼人はとても怖がっていて、依頼を伝えるとすぐに家の中に隠れてしまった。

エスカ隊長たちは、夜が来るのを待った。やがて太陽が沈み、辺りは暗く静かになってきた。そしてぬっと満月が浮かんできた。

そのときエスカ隊長たちは一斉に「あっ!」を声を上げた。依頼人が言っていた通り山に大きな顔が現れて、こちらを見てにやっと笑いかけているのが見えたからだった。

大きなまん丸の目が2つギラギラと輝き、その近くに三角形の鋭い鼻があって、目の横まで裂けたようにぐにゃりとまがった口が、なんとも不気味に笑っている。それも、動くでもなく口を動かすでもなく、じっとエスカ隊長たちの方を見て、ただニタニタと笑っているのだ。

「あいつの正体を突き止めるぞ!みんな急げ!」

急いで車に乗り込んで、笑う山に向けて猛スピードで走り出した。

しかし不思議なことに、山のふもとまで行くと、大きな顔は見えなくなってしまった。あるのは家が二軒に山小屋が一軒、そしてたるんだ電線があるだけだ。

「おかしいな。この辺りに見えたはずなのだが」

エスカ隊長隊長たちは、山から一度離れてみた。すると山には再び顔が現れて、ニタニタと笑っているではないか。

急いで山の方に戻ると、またしても顔は消えてしまう。

山に近づきては顔が消え、離れるとまた現れる。何度か繰り返しているうちに、声の高い隊員が気がついた。

「あの目、やけにまん丸すぎると思いませんか?それにあの鼻。不自然なくらい三角形で、おかしいですし。口もやたら横に長くって・・・」

エスカ隊長と細長い家〜無料 オリジナル読み聞かせ物語 小学校低学年向け

エスカ隊長のポストには、今日もたくさんの依頼が届いていた。山のようにある封筒の中に、やけに細長い手紙があるのにエスカ隊長は気がついた。封筒の幅は大人の親指くらい、長さは大人の背丈ほどもある。気になってエスカ隊長は封筒を開いてみた。中から、ニョロニョロと細長い一枚の手紙が出てきた。

依頼の内容はこうだった。

エスカ隊長へ

助けてください。家から出られなくなってしまったのです。私の住所は南の南のもっと南1丁目です。お願いします。助けてください。町の一番高い建物が私の家です。

「家から出られなくなってしまったとは、きっと困っているだろう。よし、いますぐ助けに行こう。」エスカ隊長は、地下で休んでいるふたごロボットに、急いで探検隊の隊員たちを呼びよせるように言った。

しばらくすると声の高い隊員がやってきた。少し遅れて声の低い隊員もやってきた。みんなで車に乗り込むと、ポケも小窓から走り出してきてエスカ隊長の胸ポケットに飛び込んだ。

「みなさん、おそろいですね。では出発しますよ」と車は丁寧な口調で言うと、ビュンと勢いよくエスカ探検隊を乗せて走り出した。

依頼人が住んでいる南の南のもっと南1丁目は、エスカ隊長の事務所からはかなり遠い。それでも自動運転でハイウェイを走れば今日の昼過ぎには着くだろう。

途中、サービスエリアに寄ると声の低い隊員は、いつものようにたくさん買って食べ始めた。おにぎり10個、クリームパン15個、コーヒー5本にバナナ10本。声の高い隊員は「あなた、そんなに食べて本当にお腹は大丈夫なの?」と聞くけれども、声の低い隊員はへっちゃらでオニギリをモグモグほおばりながら「だいじょうぶ。おいしいなあ、もぐもぐ。たくさん食べなきゃ仕事にならないから。おいしいなあ」

南の南のもっと南1丁目には、予定通り昼過ぎには到着した。そこは小さな町で、家がまばらにあるだけだった。

「依頼人の家は一番高い建物だと書いてあったな。ああ、あそこだ。」

それは他の家に比べると5倍も高い建物だったが、反対に横幅も奥行きは他の家よりもずっとずっと狭かった。牛乳パックを5つ縦に重ねて大きくしたような形をしていた。

声の高い隊員は「こんなに細長い建物は見たことがない」と驚いた。ポケも初めて見る変な家を怖がって、エスカ隊長の胸ポケットから目だけを出してブルブル震えている。

その時だった。家の上の方から、間延びした声でエスカ隊長を呼ぶ声がした。

「エスカ隊長ーお、来てくれたんですねーえ」

声のする方を見ると、その細長い家の一番上に窓があってそこから何かがエスカ隊長たちを見下ろしている。

「ありがとうーございますーう。助けてーえ、くださーい」

その声の主は、なんと一匹の大きなヘビだった。ヘビが細長い家の一番上の窓から頭だけを出して、こちらに話しかけていたのだ。

「あなたですか、私に依頼の手紙をくれたのは」

「はいー、そうですーう。頑張ってーえ、体に合う家をー作ったのはいいのですがーあ、出られなくなってーえ、しまったのですーう」

ヘビによると、玄関から家に入ったところ、後ろに進めなくなってしまったのだという。上から出ようと試してみたが、あまりに高いので怖くて上からは出られなかったらしい。それでなんとか舌で手紙を書いて、エスカ隊長に助けを求めたのだった。

エスカ隊長はどうやって助け出すか考えた。ハシゴで上にのぼろうにも、あまりに高くて普通のハシゴでは一番上には届かない。玄関から引っ張り出すしかなさそうだ。

「よし、声の低い隊員。しっぽをつかんで引っ張り出せるか試してみてくれ」

「わかりました」

声の低い隊員は腕まくりをし、玄関に向かった。ヘビのしっぽをつかもうとドアに体を突っ込むと、「あれ」と言った。

「どうした、声の低い隊員。なにかあったか」

「エスカ隊長、困ったことになりました。体がドアに挟まって、動けなくなりました」

力持ちだが体が大きい声の低い隊員は、細長いドアにぴたっとはまってしまったのだ。エスカ隊長や声の高い隊員が引っ張り出そうとしてみても、ビクともしない。

「困ったことになった」

エスカ隊長ら頭を抱えた。下からは助けられない。かといって上からも助けられない。一体どうしたものか。

ふとエスカ隊長はひらめいた。ふたごロボットに丈夫なロープを持ってくるように頼んだ。そして車を家の近くに呼び寄せて、ふたごロボットが持ってきたロープの端を車に結びつけてから、反対側を丸く結んで家のてっぺんに投げて引っ掛けた。

エスカ隊長は車に「まっすぐ走れ」と伝えた。わかりましたと車はエンジン音を響かせて、思い切り走り出した。

ロープに引っ張られてミシミシと家は音を立て、やがて根元からポッキリ折れてゆっくり傾き、地面にズシーンと倒れた。

なんと、縦に細長かった家が、地面に倒れて横に細長い家になったのだ!

地面がちかづいたので、ヘビは窓から抜け出すことができた。また声の低い隊員も玄関のドアが壊れたのでなんとか抜け出すことに成功した。

「エスカ隊長ーお、ありがとうございましたーあ」

ヘビはそう言って、横に細長い家に入ったり出たりして喜んだ。

こうして今日もまたエスカ隊長の活躍によって問題は解決したのだった。

隊長の事務所への帰り道、疲れたと言って声の低い隊員はコンビニでパンを10個、牛乳を10本、りんごを15個、そしてアイスクリームを5個食べたのは言うまでもないだろう。

今後もまた、エスカ隊長たちの活躍に、期待しよう。