2年前にこのエントリーを書いた。当時は相当に悩んでいたと思う。こだわりの強い子供とどうしたらうまく向き合えるか、どうしたら彼がより暮らしやすくなるか、そんなことをよく考えていた。今でももちろん同じことを考える。それでも時間が経ち彼も小学生になってふと最近の様子を思ってみると、この記事の頃と比べれば随分変わったと思う。
ゲームをする時の様子や、得意なこと不得意なことを見れば今も似たような傾向はある。しかしながら傾向があるだけで相当に改善されたと感じる。たとえば自分で何かを決めることは得意ではないが、しかしきちんと決断できることは増えてきた。機械への執着はあるが、それだけではなくて他のことにも関心をきちんと示したり集中できるようにもなった。順番を待つこともできるし、我慢してたとえばカードを貯めておいてここぞの場面で使うとか、そういうこともしっかりできる。大きく変わった。
ゲームの腕前もかなり上手くなってきた。カタン以外にもいくつかボードゲームを買って遊んでみたが、たとえばドミニオンあたりでは頻繁に負かされる。他人の様子を読んで自分の行動を変えたりとしっかり考えてやっている。嬉しくもあり、単純に悔しくもあったりする。
一方でテレビゲームはまだまだ苦手だ。特にアクションゲーム。これはまったく上手くならない。2Dマリオなどから始めさせてみようとしても、やりたくないと本気で嫌がる。この辺が難しいところだ。
いずれにせよ、子供はどんどん変わっていく。もちろん人によるので、うちの息子はそうだったというだけだし、他人から言われる「きっと大丈夫だよ」という無責任な言葉ほど腹立たしいものはないことは知っている。それでも、長い目で考えることは重要なのかもしれないと、そう考えた次第である。2019.5.23追記ここまで
5歳になる息子がいます。彼はすこしこだわりが強かったり、時に癇癪を起こしたり、あるいは運動能力が若干低いのですが、一方で記憶力や思考力はある、という具合に成長に偏りがある子どもで、いわゆる発達障害の傾向がすこし見られる男の子です。
そんな息子と私たち両親とで遊ぶ時に、単に親が遊びたいからという理由で「カタンの開拓者たち」を取り入れました。
本当にただ楽しいからカタンで遊んでいただけなのですが、しばらく遊び続けているうちに、息子に良い変化が見られるようになってきました。それまで苦手でうまくできなかったことが、カタンを遊ぶ中で自然と身についたようなのです。
そこで、私たちがどのようにカタンで遊んだか、そして息子にどのような変化が見られたかについて、書き残しておきたいと思います。
そもそも「カタンの開拓者たち」とは?
ドイツ生まれのボードゲームです。ボードゲームというのは、人生ゲームやすごろくのように、サイコロやカードを使って数人で遊ぶアナログゲームのことです。
なかでも「カタンの開拓者たち」はボードゲームの名作と言われていて、発売されてから長年にわたってベストセラーになっていて、世界中で楽しまれているゲームです。
ルールをかいつまんで説明すると、「サイコロを振ってカードを集めて、集めたカードを使って陣地を広げていく」というものです。一見複雑ですが、一度遊んで見れば大人なら簡単に飲み込めるルールです。
5歳には早いかなあと思いながらも購入
さて、このカタンですが、誰が一番遊びたかったかというと、私です笑。 しかしなかなかカタンで遊ぶ機会がなかったので、子供が大きくなったら家族で遊ぼうと随分前から心に決めていたのでした。
息子が5歳になり、簡単なルールのトランプなら遊べるようになったので、ちょっと早いかもしれないと感じながらも思い切ってカタンを購入したが今年の話です。
息子の特徴
さて、うちの息子ですが、発達障害の傾向があると一口に言ってもいろいろなタイプがあります。ADHDと呼ばれるようなものやアスペルガー症候群のようなケースもありますが、うちの息子の場合はというとこんな感じです。
彼にとって難しいこと
気持ちの切り替え
何かに自分が取り組んでいる時、例えば終わりの時間が迫っていても、気持ちを切り替えてストップすることができない。
待つこと
自分の順番を待つことが難しい。誰かの後に自分の順番がくるということが分かりにくく、我慢がなかなかできない。
特定のことに執着しないこと
例えば自動販売機やトイレなど、特定のものに関心が強くその気持ちを抑えることが難しい。
自分で何かを決めること
たとえばおやつを家族で食べるとき、味が2種類から選べるとしても、自分で決断して選べない。
彼にとって簡単なこと
文字を読むこと
ひらがな、カタカナ、身近な漢字(雨、駅、道路、組などなど)、アルファベットは読めるし意味も分かる。
機械の操作をすること
テレビのメニューから字幕のオンオフ設定や、予約録画設定などはすぐに覚える。
日付を覚えること
何ヶ月も前に遊びにいった場所の話をすると、すぐに日付を言い当てる。
このような具合で、できることはかなりよくできる一方で、苦手なことはなかなかうまくいかないというタイプの子どもです。
カタンを取り入れて最初の1週間
カードを取る作業にこだわる
さて、カタンが我が家に届いて最初の日、一番ワクワクしていたのは私でした笑。でも息子も「カタンっていう新しいゲームやりたい?」と聞くと「やりたいっ!」といって、彼も上機嫌でゲームに乗ってきました。
カタンを遊ぶにあたって、まず息子が食いついたのは、「サイコロを振って出た目に合わせてカードを取る」という作業です。
カタンの一つの特徴は、自分が置いた陣地の種類によって異なるカードをそれぞれが山から採っていくことと、
自分がサイコロを振った時でなくてもカードを取れることです。そのため、頻繁にカードを取る作業が発生する上に、その都度異なるカードを取る必要があるので、案外忙しいのです。
息子はこの「カードを取る」という行為に大いにハマりました。あまりにも楽しいので、全員のカードを取って配る役目をやりたいと言い、一生懸命取り組んでいました。サイコロを誰かが振るたびに「木と、石と、麦がお母さんね!」と言いながらカードを取っては配るので、画像を認識したり手先を動かしたりするいい練習にもなったようです。
ちなみにカタンでは、6種類のカードを使いますが、そのうちの5種類は資源カードと言って、陣地を広げるために使用するものになっています。
- 木材:深緑のカードです。我が家では「木」と呼んでいます。
- 穀物:黄色のカードです。我が家では「小麦」と呼んでいます。
- 羊皮:浅い緑のカードです。我が家では「羊」と呼んでいます。
- 粘土:茶色のカードです。我が家では「レンガ」と呼んでいます。
- 鉱石:灰色のカードです。我が家では「石」と呼んでいます。
これに加えて発展カードという特殊なカードを用いて遊びます。
写真の六角形のパネルがマップを構成していて、このマップの色とカードの色が対応しています。例えば深緑のパネルの陣地を持っていれば、同じ色の「木」のカードをとることになるのです。このようなルールが、息子の認識力の向上にも役立ったようにも感じます。
その一方で、問題になったのは息子の「自分がカードを取りたい」という思いが強すぎたことです。
本当に彼にとってカードを取って配ることが楽しかったのだと思いますが、同時に自分の役目だと思ってそれを手放したくなくなってしまったとも言えます。
そのため、やがて私が自分でカードを取ろうとすると癇癪を起こすようにもなりました。やりたいことをやれないことが全く我慢できない状態になり、ここからしばらくは抜け出せない状態が続きました。
「自分の番」や「カードが貯まる」のを待てない
また、始めてしばらくは、自分がサイコロを振る順番を待つのがかなり難しいようでした。
自分が一度サイコロを振ったら、次は自分ではないことは彼も分かっています。しかし3人で遊んでいるのであれば、自分が終わったら次の人がサイコロを振って、その次もまた自分の番に戻ってくるものと勘違いしてしまうのです。しかし3人目がいるので、息子の番ではないことを伝えると、その都度大きくがっかりして、深く嘆くのです。
サイコロをふる順番が分かっていないこともさることながら、自分がどんどんやりたいという気持ちを抑えるのが難しい様子でした。
また、カードが貯まるまで待つのも難しい様子でした。
カタンでは自分のやるべきことの見通しを立てて、その目的に合わせてカードを使わず貯めておかなければならない場面が必ずやってきます。これは大人でも判断が難しいことではあるのですが、息子にとってもやはり相当難しいことのようでした。
つまり、陣地を広げるためにとっておくべきカードを、どうしても我慢できずに別のことに使ってしまうのです。例えば石と小麦と羊に3枚で発展カードという特殊なカードに交換できるのですが、勝つためには我慢してこの先で必要になるカードを手元に置いておく必要があるのに、待つことができずに発展カードに交換してしまうのです。
その結果、陣地を広げることができずに後半で苦労していることがよくありました。
とにかく当初の息子にとっての大きな課題は「待てないし我慢できない」ことで、克服するのは簡単ではありませんでした。
自分で行動を決められない
自分で何かを決めることも、初めのうちは難しいようでした。
カタンは最初のターンでサイコロの目によって順番に陣地を選ぶところからゲームが始まります。
基本的にはどこでも陣地を選べるのですが、どうしても自分で選ばずに私たちに選んでほしいというのです。
それでは面白くないので頑張って自分で選ぶように言い聞かせますが、なかなか選べず、最後には癇癪を起こします。
思い切って決めてやってみる、ということができずに、本人も苦労していました。
また、陣地だけでなく赤、青、白、オレンジの4色の中から自分の駒の色を決める必要があるのですが、これもなかなか決められませんでした。最初に「僕は赤がいい」といったものの、私が「じゃあ青にする」というと、「やっぱり僕も青がいい!」となって、延々決められません。このようにあらゆる点で自分で決定することが難しいようでした。
そのくせ勝つことに異常なまでに執着する
これはどの子どもでも同じかもしれませんが、まだまだ難しいことがたくさんあるのに、尋常ではないほどに勝つことに執着するのです。大人に対して「手を抜いてでもいいから勝たせて欲しい」とお願いしてくるほどです。
我が家では夜寝る前にカタンで遊ぶことが多いので、カタンで負けてしまって癇癪を起こして彼が寝られなくなってしまってはたいへんです。ですから、最初のうちはわざと負けてやったりだとか、とても追いつけないようなハンデを大人が持つことによって、なんとかしのいでいました。
3ヶ月経った今の状態
さて、それから3ヶ月が経ちました。週に2回から3回程度、毎週息子と私たち夫婦と3人でカタンで遊んでいます。すると、冒頭でも書いたように少しずつ息子の様子が変わってきたのです。
執着心が落ち着いてきた
はじめのうちは、例えば「全員のカードを自分でとること」にこだわっていた息子ですが、最近では自分のカード以外は取らなくても気にしないようになってきました。私がサイコロを振って自分のカードは自分で取ったとしても、全く気にしません。それよりも、自分がどのように戦うかを一生懸命に考えるようになってきました。
また、勝ち負けにもまだまだこだわりますが、「勝つこともあれば負けることもある」ということがわかってきたようです。以前であれば、自分が負けるとものすごく落ち込んだり文句を言ったりと、なかなか気持ちを切り替えることができませんでしたが、そのようなことが明らかに減ってきたのです。今では「あーあ、負けちゃったよー」と残念がりますが、それでもぐっとこらえていられることがかなり増えてきています。
ゲームを通じて、運の要素もあるし、自分のやり方がうまければ勝てるし、反対に立ち回りが下手なら負けるということが少しずつ飲み込めてきたからなのではないかと思います。
自分のターンを待てる
順番の認識も今までよりもかなりはっきりと持てるようになりました。
自分の次はお父さんで、その次がお母さん。自分の番はその次だ、ということを明確に認識して、私たちがサイコロを振るのをしっかりと見て、その結果に合わせて自分がとるべきカードをとる。そして次の動きを考える、というようなことができるようになってきたのです。
カタンが、自分がサイコロを振ったとき以外にもすることがあるというゲームなので、その面でも良かったのかもしれません。例えば普通のすごろくなら、サイコロを振った人以外は待っているだけになってしまいます。
しかしカタンは自分以外がサイコロを振ってもカードを取れるので、待つことに対するハードルが下がるのだと思います。
カードを蓄えて、次の行動に活かせる
さらに、自分がこの先にしたいことのために、自分が持っているカードを使わずに蓄えておくことができるようになりました。たとえば陣地を広げることを目標としたときに、「あとは羊があれば開拓地が作れるから、いまは発展はやめておこう!」と言って、それを使わずに我慢できるのです。
最初の頃は石と小麦と羊のカードが揃ったら「発展カードを引く!」といってカードを引き、最終的にはどんどん勝利しにくくなってしまうというケースばかりだったのが、だんだん「今はこのカードは使わずに取っておこうっと」といって、しばらく待って必要なカードがたまるのを待てるようになってきたことは本当に大きな変化です。
自分なりに先を見通す努力をしながら、それに必要な状況が出来るのを待つ、というなかなか難しいことができるようになってきたことを意味します。それを見て、かなり嬉しく思いました。
自分で考えて行動を決められる
最近では、自分で考えて行動を決定することもできるようになってきました。
例えば最初の色決めもスムーズです。「前回は赤だったから、今回は青にする」とか、自分なりの理由を考えて、その理由に合わせて色を決めるようになりました。彼自身が納得できる理由を作って、行動を決定することができるようになったのです。折り合いをつけたり、理屈を作って行動を考えられるようになったことは、大きな成長です。
また、陣地決めも、より多くカードがもらえるエリアに陣地を優先的に作ったり、さらには特定のカードが出やすい陣地を取ったのでその条件を活用できるような交易エリアに二つ目の陣地をとる、といった戦術を考えながらの遊びもできるようになりました。
これは、私たち親の行動を見て真似ることでできるようになったのかもしれません。例えば前回のプレイで息子が負けて私が勝利したとすると、そのときの私の遊び方を思い出して、次回から同じような戦い方をする、というような工夫が見られたのです。
自分なりに過去の経験から学んで、その学びを基本にして自分の行動を決定するという行動ができるようになったことも、本当に大きな変化であり、私たちにとっては喜びでした。
カタンを通じての今後の彼の変化に期待
まだカタンを遊びに取り入れて3ヶ月ですが、このように息子が苦手だったことがカタンの中での話ですが、少しずつできるようになっていくのを見るのは、本当に嬉しいものでした。
うちの息子の場合は、ルールを覚えたり、複雑な機械の操作をしたりすることは得意だったので、カタンのようなボードゲームで遊ぶのがたまたまぴったりだったのかもしれません。
しかし似たような傾向のあるお子さんがいらっしゃる家庭では、カタンやその他のようなボードゲームを家庭での遊びを取り入れてみると、意外な収穫があるかもしれません。
これからもしばらく継続的にカタンで我が家でも遊んでみて、変化が見られたら更新したいと思います。
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