東京FMの人気番組「あ、安部礼司」のリニューアルが不評です。
私はリアルの知り合いには安部礼司のファンはいないため、ネットの評判を読む限りではと言う感じですが、リスナーの一人としてリニューアル後の放送を聞いてみても、「これはちょっとないなあ」と感じます。既存ファンには概ね不評、という評価で間違いないだろうと思います。
良くいえば、よくこれだけの大きな変革に踏み切れたものだと感心します。
安部礼司はなかなかに人気のあったコンテンツです。固定ファンが多くついていました。それを振り切って、ここに安住していてはダメだ、と言う心意気で、きっと制作者たちは変革を起こしたのでしょう。
変化させること自体は、すごいです。明らかに不調というわけでもないなかでの変革は、なかなかできるものではありません。
しかし変革はもろ刃の剣。今回の大幅な変革は、現時点での評価を見る限りでは、残念ながら多くの既存ファンの心をつかむことには失敗したように見えます。
そもそもリニューアルの狙いは何か
5月というタイミングでのリニューアル。不思議な感じはしますよね。
リニューアルのそもそもの狙いは何だったのでしょうか。
少なくとも、「既存ファンにますますこの番組を好きになってもらうこと」ではないはずです。これまでの路線を強化するためのリニューアルには見えません。
おそらく狙いは、「新しいファンを取りに行く」こと。それが、リニューアルで目指したことだと思います。
「新しいファンの獲得」は、番組を継続していく上で当然の課題です。古いファンも長年番組が続けば少しずつ離脱していって、いずれはいなくなります。新しいお客さんの獲得は重要課題です。
問題は、「既存ファンを切り捨てる覚悟まであったのか」という点です。
私の考えでは、制作チームの中には「古いファンを全て失ってでも新しい命を吹き込むのだ!」という強い心意気で今回のリニューアルを進めた人が、制作チームの中にいたはずだと思っています。だからこその大鉈です。
その一方で、その思いが全員の総意だったかといえば、そうではなかったのではないかと思っています。
今のタイミングでリニューアルって必要?とか、既存ファンを切り捨てるのはさすがに勿体無いのでは?と思っていた人が、チームに少なからずいたのではないかと。
でなければ、無理に安部礼司という形をとる必要はありません。
制作陣の一部は大幅に変更したい。でも一部は安部礼司の資産を大事にしたい。その結果「これまでの安部礼司で培ったファンをベースにしながらも、新しいファンも獲得していく」という路線に落ち着いたのではないかと思います。
そして、中途半端なリニューアルであるがゆえに失敗した、というのが現状でしょう。
ツイッターを見る限りでは、「これは安部礼司ではない」「これならリニューアルせずに終わらせてしまったほうが良い買ったのではないか」といった声が聞かれます。相当反発を受けている状態です。
なぜこの度のリニューアルは、このような評価を得ることになってしまったのでしょうか。
既存ファンが不満を抱いたのには3つ理由がありそうだと思っています。
聞きたい内容ではなくなってしまった
まずはこれです。聞きたい内容とは違うものになってしまったと言うことです。
リニューアルに伴う大きな変更点は次のポイントです。
- 重要キャラクターがいなくなった
- 既存キャラクターの位置付けが変わった
- 既存キャラクターが登場しないパートができた
どれも大きな変更点です。
ファンにとってはなかなか受け入れがたいものだと感じます。
その一方で、個人的には少なくとも1の「キャラクター退場」だけは、なるほどそういう手はあるなと感じさせられました。
今回のリニューアルが、新規リスナーの獲得を目的としたものだったとすれば、敷居を低くすることが必要です。「この番組、今から聞いても面白そうだなあ」と感じなければ新規リスナーは逃げていくからです。
しかし、安部礼司はラジオドラマです。それも10年以上も続いている番組です。その特性上、固定キャラクターが登場し続けることは避けられません。
事実、安部礼司では、一見さんお断りとまでは言いませんが、背景を知らないと楽しめない要素がかなり多くありました。
一話完結ではありながらも、いわゆる内輪ネタのようなものがかなり増えていたために、初めて聞いた人にとっては「なにこれつまんない」な内容が多かったはずです。
その最たる例が、リニューアルで追い出されてしまった刈谷というキャラクターだったと思います。
私は5年ほど前から安部礼司を聴き始めましたが、はじめからこの番組を受け入れられたかというと全くそんなことはなくて、むしろなんだこのつまらない番組はと怒りを感じたこともありました。その理由がまさに内輪ネタが多かったからです。しかもその内輪ネタが結構つまらない。
具体的には刈谷というキャラクターが問題でした。
過剰な演技と軽いギャグとで、きっとファンには人気なのだろうけれども、そうでない人にはちょっときつめ。そんな立ち位置だったのが、刈谷です。
このキャラクターがいることで、ストーリー的には助かる面もあれば、反対に何がテーマだかわからなくなるケースが多くありました。
キャラクターに思い入れがない新規リスナーにとってみれば、テーマがわかりにくいことは致命的です。好きでもないキャラクターがよくわからないギャグを言っているのでは、聴き続けることは難しいです。
そこで、刈谷の退場案が出てきます。彼がいなくなれば、新規リスナーにとっては参入ハードルが低くなります。理にかなっています。
だから、新規リスナー獲得のためという点から考えれば、刈谷退場は意味のある変更だったと思います。
2点目のキャラクターがちょっと変わってしまったというのも、大きな変更です。
今までだったらこの人はこんなことは言わない設定だったはずなのになあ、という場面が見られます。
ただ、彼らは刈谷と違って退場したわけではないので、少しずつ元に戻していけばよいのですから心配不要かもしれません。
3点目の既存キャラクターが出てこないパートができた、については、今後これをキープするかどうかによって結構印象が変わるかもしれません。
安部礼司は、知っているキャラクターたちが繰り広げる様子を楽しむドラマでしたから、突然知らない人が出てきても、既存ファンには厳しいです。
新規リスナーにとってみてはどうでしょうか。感覚的には微妙かなあと思います。
一つ一つの話を聞いてみると、そんなに面白くないわけではない。しかし、あくまであるあるネタの延長にあるレベルのものなので、感動するほど面白いわけでもないというのがこれまで聞いてみたところでの個人的な感想です。
このレベルの内容だと、新規リスナーにも大して受けないのではないかなあと感じます。
特に、この番組の放送時間帯が問題です。
日曜の黄昏時。番組の冒頭で必ず聞かれたセリフです。そう、安部礼司は日曜日の夕方の、やるせない憂鬱の中にありながら、また明日からのエネルギーをなんとか自分の中から絞り出すための時間帯に聞かれる番組な訳です。
この時間帯に聞きたい物語や、触れ合いたいキャラクターはどんな人だろうか。そう考えると、今回のリニューアルの内容や人物設定は、ファンの機体とのズレが大きいのではないかと思われます。
結果として、既存ファンが求めてきた安部礼司とはかなり違ってしまった。しかもそれがいかにも新しいリスナーに受けそうな内容ならともかく、微妙な位置付けの内容にしかなっていない。ということから、多くの人の心がついていけていないのが現状なのではないかと考えています。
リニューアルの意図がわからない
リニューアルが不評である別の理由としては、「リニューアルの意図がわからない」ということもあるように思います。
たとえば、2018年に番組が終了した「めちゃイケ」や「みなさんのおかげでした」などは、内容に行き詰まり感が見えていて、しかも視聴率も伸びないという状況でした。だから、視聴者側にもこれら二つの番組が終了するの理由はある程度簡単に飲み込めました。また、これら二つの番組はバラエティー番組で、どちらも新しいことにチャレンジして切り開いてきた番組です。だから、マンネリはその性質とマッチしていないのです。だからコンテンツの行き詰まり感は致命的です。
翻って安部礼司。こちらはどうでしょうか。
聴取率データは見つけられませんでしたが、東京エフエムの放送番組審議会の議事録なるpdfが出てきました。
https://www.tfm.co.jp/company/pdf/news_4b53a05970ebd14549bc3b1cd4847bdb591530a87821e.pdf
このなかに、以下のような一文があります。
「サンデー・ソングブック」「安部礼司」に匹敵するような名物番組を配置して
また、他の箇所を見るとこのような文面も見られます。
番組発の企画や番組から発信していくことが大切だと考える。それは「SCHOOL OF LOCK!」とか「安部礼司」とか、とても評価されていると思う。
これは2017年の資料です。最新ではありませんが、ここからそれほど大きくは状況は変わっていないと想定すると、番組そのものの不調がリニューアルの必要性の理由にはならないのではないかと思います。
また、毎年各地でイベントを催すのが安部礼司の特徴の一つですが、どのイベントも来場者という意味ではそれほど問題があったという話はありません
つまり、現状での人気という意味ではそれほど問題がなかったと考えられます。
もちろん、番組を今後も継続していくためにはリスナーの入れ替えは必要です。入れ替えという言い方がおかしければ、離れていった既存リスナーの分だけ新しいリスナーを獲得する必要がある、という言い方でも結構です。
現状維持のためには、新しいリスナーが必要ですから、今の状況だけを見ていてもダメです。将来的にも継続して番組運営できるかがキーであることはわかります。
・・・とはいえ。そのためのリニューアルを今、この形で、本当にやらなきゃダメだったの?
これが既存リスナーの声なのでしょう。
番組もツイッターアカウントを持っていますし、プロデュースをしている堀内氏や、新しく作家として加わったマンボウやしろ氏なども、情報発信チャネルをきちんともっていますが、どちらもわかりやすい背景説明はしていません。
そうすると、既存リスナーはよくわからないタイミングと理由でのリニューアルを経た不思議な状態の番組をただ我慢して聞いているしかありません。フラストレーションがたまります。
結果として、このリニューアルダメだなー、という反応が生まれてしまっているのだと思います。
既存リスナーは切り捨てられたと感じてしまった
リニューアルが不評である別の理由としては、もっと直球なものもあるとおもいます。
つまり「既存リスナーは、自分たちが晩ん組から切り捨てられてしまった。大事な存在ではないと言われてしまった」と感じていることです。
私の想像では、番組制作陣のうち既存リスナーの切り捨てに強い覚悟を持っていた人は一部しかいなくて、残りはそこまでの覚悟を持たずに今回のリニューアルに望んだのではないかと踏んでいます。
狙いはあくまで「新規リスナーの獲得」であり、「リスナーの入れ替え」までは想定していなかったのではないか、ということです。
しかしリスナーにとってはそうではなかった、というのが今起こっていることです。つまり、既存リスナーは「あなたたちはもうリスナーとしては不要です。卒業してください」と切り離されてしまった感覚を持っている、ということです。
それは当然です。
リニューアルのはっきりしたわかりやすい理由はわからない。そのうえ、自分たちが好きだったキャラクターを「海外赴任」という形で退場させたうえ、残ったキャラクターも微妙に知っているひとたちとはちがう性格になっている。
あ、つまりもう聞くなってことね。・・・とリスナーは思ってしまいます。
もちろん、それでも安部礼司を信じてついていく!という熱のあるファンもいらっしゃいます。ですが、問題なのはファンの中にはいろんな層のファンがいて、ライトファンはそこまでの義理は感じていない可能性が極めて高いということです。
事実、ツイッターを見る限りでは、もう聞くのをやめてしまったという人たちが現れています。
反対に「今日聴き始めたけど面白い!」というツイートはまだ見かけません。はじめてきいたひとがいきなりその番組についてツイートするというケースはまれでしょうが、まだそこまで関心を持つ新規リスナーの取り込みには、残念ながら成功していない、ということでしょう。
一体今後どうなるのか、注目です
番組を作るにあたり、リスナーの反応に耳を傾けることは重要でしょうから、既存リスナーの反応はすでに製作陣に十分届いていると思います。
それをうけて、彼らがこれからどのように舵を切るのか、あるいは切らないのか、それとも番組そのものが切られるのか。何が起こるのか、要注目です。
ちなみに今オススメのラジオ番組は野村訓市のTraveling Without Moving
さて、最後に安倍礼司とは関係ない話で、個人的にオススメのラジオ番組の紹介をしておきます。
今面白いのは野村訓市のTraveling Without Moving です。J-WAVEの番組なので全国どこでも聞けるわけではありませんが、聞ける方は是非聞いてみてください。
面白さについてはこちらで紹介します。
野村訓市のラジオ「antenna* Traveling Without Moving」マウント合戦が面白い
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