「努力の跡」が、人を動かす

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社内でプレゼンテーションをする人に、プレゼンの仕方についてアドバイスをする機会があった。アドバイスをした相手は二人。どちらも私より年上だ。二人は同じ場で、それぞれ異なるテーマで社内向けのプレゼンテーションをする。

二人ともプレゼンテーションの経験が多いわけではないらしく、そもそも作ってきた資料がかなりわかりにくいものだった。メッセージはあるのだが、おそらく本人の中で十分消化しきれていないからか、伝わってこない。

私の方が年齢が若いが、しかしプレゼンテーションを成功させ目的を達成することが大切なので、かなり大幅に資料への赤入れを行い、最終的には時間の都合もあるので構成の入れ替えをした。

プレゼンターの一人、Aさんとするが、Aさんは私の赤入れに素直に従った。特に反論するでもなく、はいわかりました、と私の修正を受け入れる。

もう一人のほう、 Bさんはと言うと、私の修正に1つ1つつっかかってくる。なかなか素直には聞き入れないが、私は私で自分の内容に自信を持って1つ1つ細かく意図を説明し、最後にはなんとか同意してもらえた。

こうして資料ができあがると、次はしゃべりの問題が出てくる。

数百人を前にしてプレゼンテーションをする機会が豊富にある人は少ない。AさんもBさんもそうで、かなり緊張しているようだった。私はプレゼンテーションを成功させるための一番の近道はとにかく練習することだと伝えた。

Aさんは、わかりました練習しておきますね、素直に受け入れた。

Bさんはというと、練習することには前向きだったが、どのようにやれば良いかわからないとのことだった。私は、プレゼンテーションの内容を見に染み込ませる必要があり、そのためには何度も実際に喋ってみたり、また恥ずかしくても録音や録画をしてみたりするのがよいと伝えた。さらに、たとえば今私の前でやってみてはどうですか、と投げかけてみた。Bさんは度胸があるのか、じゃあといってしゃべり始めた。

Bさんのプレゼンテーションのテーマは軽いものではなく、きちんと聞き手に理解してもらい、行動を促さなければならないような内容だったが、本人のパーソナリティがどちらかといえば軽い方のひとなので、その内容の重大性や緊急性が伝わらないしゃべり方になってしまっていた。

私は心を鬼にして、内容とトーンがあっていない、Bさんの性格とは合わないかもしれないがもっとシリアスな言葉遣いと声の調子で語っていただかないと、聞き手にはきっとメッセージが届かない、という主旨のことを伝えた。

Bさんはそれを聞いて、当然ながら不服そうであった。そして、では練習しておきますと一言言って、その日は終わり。

さて、土日を挟んで次の月曜日。プレゼンテーションの本番だ。

まずはAさんの番だ。Aさんは、プレゼンテーションの修正にも前向きであり、練習もしっかりすると言い放っていた。しかしプレゼンテーションはボロボロだ。ストーリーは道筋が通っているのに、言い間違えたり、項目を飛ばしてしまって後から戻ってきたり、そもそも緊張して落ち着きがなかったりして、練習をほとんどしていなかったことは明白だった。

続いてBさんだ。この人はもともと社内でも軽い雰囲気の持ち主として有名で、この人が壇上に立っただけで少し笑いが起こるくらい。しかも表情がかたい。すさまじく緊張している。これはBさんもダメかもしれない、そう覚悟したが、始まってみれば素晴らしいプレゼンテーションに仕上がっていた。この人が持つ独特のトーンはあるものの、テーマにあった雰囲気とスピードで進んでいく。内容を既に知っている私でも、その内容に引き込まれていくほどの出来栄えだ。誰の目にも、その人がきちんと準備をして、練習を重ねて、成功させるための努力を怠らなかったことは明らかだった。

そのプレゼンテーションの後、Bさんは会う人たいていの人から、あのプレゼンはよかった、と言われたのだという。

私自身、この経験から多くを学んだ。まずは姿勢。プレゼンテーションでもなんでも、それを通じて達成しなければならないことをしっかり意識して、そのために向かっていくこと。たとえばAさんは、資料に対する私からの赤入れに特に反対するでもなく、素直に受け止めていた。それは私の修正依頼がよかったからというわけではなくて、その人が資料に対して、もっといえばプレゼンテーションに対してそれを通じて何を達成したいと思うかを十分に認識していなかったせいだ。もし真剣に成功させたいという思いがあったとすれば、資料の作り方に対してと何か考えがあるはずであり、それを否定されると反発したり説明を求めたりするはずである。Aさんにはそれがなかった。
その点ではBさんは違っていた。指摘1つ1つに本人の意見を語り、私の意見に対する説明を求めた。それを納得するまで続けていた。そもそもの姿勢の部分が大きく違っていたことになる。

加えて、努力の跡が見えるか見えないか、が聞き手やその人を見る人の印象に大きく影響を与えることも身をもって体験できた。

Aさんは、もともとの評価が高い人ではなかった。プレゼンテーションもそこまで巧かったかと言われればそうではない。それにもかかわらず多くの人から高い評価を受けたのは、そこに努力の跡をはっきりと見たからだろう。何かを成し遂げようと考え、そのために必要な努力をすると、そのことをことさら強調せずとも周囲ににはそれが伝わる。反対に、しかるべき努力を怠れば、それだけの結果しかついてこない。

当たり前のことと言わず、成果を得るための努力をきちんとできることは、何をする上でも重要であると改めて気づかされた。

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