マーケティングという言葉は、ほんとうに厄介な言葉だ。言葉の定義をはっきりさせないままたくさんの人に使われてしまっている。

会議で「それはマーケティングの仕事でしょう」とか誰かが言った時、結構な割合でその時のマーケティングは「広告コミュニケーション」だったり、「プロモーション」だったりする。もう少し広い意味で使われていたとしても、「マーケティングコミュニケーション」の範疇からは出ないレベルの内容までだ。その上位の概念として使われることは、残念ながら私の働く環境ではかなり少ない。

マーケティングの定義

じゃあ、マーケティングってなんなのよ、と問われれば私はこう考えている。

「顧客のニーズに応えるサービス・製品を提供し、顧客を満足させるとともに利益を得ること」

もっとスマートな言い方はあるかもしれないが、「顧客ニーズ」とか「製品」「サービス」だとかが出てきて、そっから「利益を得る」という話に落ち着くだろう。

これは主にコトラーの言っていることとざっくり同じになっている(はず)。定番の定義づけだと思う。

ときどきドラッカーの定義もセットで出てくることがあるが、あれは実用性が低い定義なのでイマイチだと思っている。「セールスを最終的にはなくすこと」的なアレだ。この定義はオシャレすぎる。じゃあ具体的にどうすんの?みたいなところに落ちていかない。定義として不完全。やっぱりドラッカー的な定義の方が扱いやすい。

最近見た中では、ネスレの人が言っている定義づけがわかりやすくてよかった。

「顧客の問題を発見して解決することで、新しい価値を生み出すこと」

なるほど、利益を生むとか言わないんだな。でも新しい価値を生み出すことが利益を生み出すわけで、言っていることは一緒だ。この定義が良いのは「顧客の問題」とはっきり言っていることと、さらにそれを「解決する」と明言していることだ。そしてその二つを組み合わせて使っていることも大事だ。

単に顧客の問題を発見するだけだと、それはマーケティングの一部でしかない。反対に、解決するだけでも不足している。発見して解決するところまでを合わせて行うことがマーケティングだ。その点でとても正しいし、わかりやすい定義だなと思った。

日常で使われるマーケティング

でも実際には、日常ではコトラー的な意味でマーケティングという用語が使われることは少ない。なぜならカバー範囲が広すぎるから。普段の仕事、特に現場に近い仕事をしているときは、こんなに上位の概念を持ち出して来なければならないケースは多くない。

ところが、マーケットという言葉が語源であろうマーケティングは、なんとなく使いやすそうな響きを持っている。

思わず使ってしまうのだ。私はマーケティング担当です、とか。そんでほとんどの場合繰り返しになるがそのマーケティングはプロモーションだったり広告だったりする。

確実に「今広告の話をしているな」とわかるような場面なら問題ない。もしくはそこでマーケティングの定義をはっきりさせる必要がない茶飲み話ならそれも良い。問題は業務の定義がはっきりしないと、相手と業務におけるバッティングが発生しそうな時だ。

たとえば、マーケティングリサーチを担当している人とやりとりしたい時、目の前にマーケティング担当ですと言っている人がいた場合、その人がリサーチまで見ているのかどうかわからない。マーケティング担当というのは、コトラー的な意味であれば上流から下流まである程度見る役割を果たしていてほしい。

じゃあさっきの「マーケティング担当です」と言っている人はそういうロールかというと、相当な頻度で違う。というか、数名でやっている会社を除けばマーケティング全般を担当している人がいるケースは稀だ。ほとんど「販促担当です」の意味で使われている。

だからマーケティングという言葉を使わない

マーケティングという言葉を使うと、こういう混乱が起きてしまう。「その人がどの意味でマーケティングを使っているかぐらい感じ取ってよ」という意見もあるんだろうか?

それはちょっと大変だ。結構めんどくさい。

それにマーケティング担当とか、マーケティングの話をするのなら、マーケティングってなんだっけと古典は読んでおいた方がいい。そんで古典を読んでおくと、この意味でマーケティングという用語を使うと変だし混乱が起きるな、と思うようになるはずだと思う。

というか、そもそも「マーケティング」は示す領域が広すぎるから使わない方がいいなと思うようになるはず。

だけどいちいちマーケティングの定義について、「その場合のマーケティングとおっしゃっているのは・・・」とか言い始めるとめんどくさいしおかしな奴になってしまうので、必要のない限りはやらないし、自分自身も曖昧な話をしてしまうことになるので、マーケティングという言葉は使わなくなりました。